大判例

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仙台高等裁判所 昭和60年(ネ)257号 判決 1987年12月15日

控訴人(第一審被告)

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

真藤恒

右指定代理人

三輪佳久

金子政雄

白沢徹

大内忠康

下山政利

渋谷悦男

被控訴人(第一審原告)

高橋信弘

被控訴人(第一審原告)

三浦克則

被控訴人(第一審原告)

伊藤範彦

被控訴人(第一審原告)

伊藤修

被控訴人(第一審原告)

渋谷日出夫

被控訴人(第一審原告)

鈴木聰志

右六名訴訟代理人弁護士

鈴木宏一

松倉佳紀

松沢陽明

村上敏郎

主文

一  控訴人の被控訴人高橋信弘、同三浦克則、同伊藤範彦、同渋谷日出夫、同鈴木聰志に対する本件控訴を棄却する。

二  原判決中被控訴人伊藤修勝訴部分を取消す。

三  被控訴人伊藤修の本訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、控訴人と第一項記載の被控訴人らとの間では控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人伊藤修との間では第一、二審とも同被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二  当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び当審記録中証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一当裁判所も、被控訴人高橋信弘、同三浦克則、同伊藤範彦、同渋谷日出夫、同鈴木聰志の本訴各請求は、原判決認容の限度で認容し、その余は棄却すべきものと判断するが、その理由は、左記のほかは、原判決理由中同被控訴人らに関する部分(第一項、第二項の1、2、4、第三項、第四項)に説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決四九枚目表八行目冒頭から同裏九行目の「要求されてくるのであり、」までを「そして右法の趣旨からすると、使用者は、たとえ勤務割上必要最少限度の人員しか配置されていない場合に年休の時季指定がなされたとしても、できる限り労働者が指定した時季に休暇をとることができるよう、代替勤務者の確保その他状況に応じた配慮をなすことが要請されており、そのような配慮をしてもなお事業の正常な運営が妨げられる場合にのみ時季変更権の行使をなしうるものであり、」と改める。

2  同五〇枚目裏五行目から同六行目にかけての「代務者確保に最大限努め」を「代務確保について状況に応じた配慮をなし」と改める。

3  同五二枚目表三行目から同四行目にかけての「確保に最大限努めるべき法的義務を負担している」を「確保について状況に応じた配慮をなすべきことが要請されている」と改める。

4  同五三枚目表一〇行目の「ところである。)」を「ところであり、成立に争いのない乙第一号証の二、前記乙第二号証の三、六、八、第三号証の四、八、当審証人鈴木正の証言により、成立を認める乙第二四、二九号証、原審証人鈴木弘之、同今沢勝美、同佐藤恒雄の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、今沢副課長及び佐藤課長らにおいて代務者を確保するための配慮をすればこれを確保しうる余地は十分にあつたことが認められる。)」と改める。

5  同五三枚目裏三行目の「(なお、前記のとおり」から同五四枚目表一行目末尾までを次のとおり改める。「(なお、前記のとおり、被控訴人高橋は、五月二〇日午後四時一五分頃、翌二一日の年休を取消したうえ併せて同日の勤務を日勤に変更して欲しい旨申し入れたことがあつたが、前記乙第二号証の四八、四九、原審における証人鈴木弘之、同今沢勝実の各証言、被控訴人高橋本人尋問の結果によれば、右申出は、鈴木課長から宿直宿明勤務は一体をなしているものであることを理由に拒絶され、同被控訴人も結局右申出を撤回したものと認められるから、これをもつて前記判断に影響を及ぼすものではない。)。」

6  原判決七三枚目表九行目の「窺われないことからすると」から同七五枚目表末行末尾までを次のとおり改める。「窺われない。ところで勤務割の指定及びその変更の権限は、控訴人の労務指揮権に属するものであり、控訴人において、個々の職員の技能、経験年数等を考慮してその行使をなし、日々の業務の正常な運営に支障をきたさないように配慮するとともに、職員間の負担の公平を確保するとか、あるいは特定の時期に特定の職員に過重な労務を課することのないよう配慮するとかの短期的及び長期的にみた業務の正常な運営の維持という観点に立つた諸事情の考慮のうえに行使せられるべきものであるから、職員間の合意のうえ勤務交替を申出たからといつてそれがそのまま承認されるべきであるというようなことが事実たる慣習として労働契約に転化しその内容を形成するものとは直ちにみることはできないものの、右認定慣行は慣行として、格別の事情のない限り、控訴人が勤務割の指定及びその変更の権限を行使するあたり尊重すべきものというべきである。

しかるところ本件の場合、斎藤課長らは前認定のとおり五月一八日から二二日までの間は原則として勤務割変更を行なわないとの方針のもとに、さしたる根拠もないのに、被控訴人渋谷及び同鈴木が合意のうえ申出た勤務交替が違法な空港開発阻止闘争に利用されるのではないかとの疑いから、業務の正常な運営という観点とは別の配慮で(右勤務交替が控訴人の正常な業務の運営に何らかの影響を及ばすものであつたことを認めるに足る証拠はない。)、右認定の慣行にも反して勤務割の変更承認をなさなかつたうえ、控訴人において従前の勤務割を前提として被控訴人渋谷及び鈴木に無断欠勤があつたものとして、その賃金カットをし更に減給ないし戒告の懲戒処分をしたもので、控訴人のとつた右一連の措置は、既にみたところに照らし、使用者としての権限を濫用したものとして無効というべきである(なお、控訴人は、本件勤務交替を承認しなかつた理由の一つとして、被控訴人鈴木は五月一八日から同二二日まで連続して当初指定された勤務割を変更し、そのうえで右二二日に勤務交替を申出たものであり、斎藤課長がこれを容認できない勝手な勤務交替と判断した旨主張するが、前掲乙第五号証の四、五、成立に争いのない甲第二六号証、証人斎藤繁信の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人鈴木の五月一八日から同二二日までの連続的な勤務割変更は、当初指定されていた同月二〇日、二一日の宿直宿明勤務を大崎克彦の指定されていた同月一八日、一九日の宿直宿明勤務と勤務交替したため、これに必然的に伴う右大崎とのその後の休日等の入れ換えの結果によるものであり、これをもつて被控訴人鈴木の数日間にわたる勝手な勤務交替とはとうてい言い難いものであり、右事情は斎藤課長においても当然了知していたことが認められ、右控訴人の主張も直ちに採用し難い。)」

7  同七五枚目裏一行目冒頭から同五行目の「原告らに対し、」までを「4以上のとおり、控訴人が被控訴人高橋信弘、同三浦克則、同伊藤範彦、同渋谷日出夫、同鈴木聰志に対して行つた本件各懲戒処分及び賃金カットは、適法に取得された年休、祝日代休が無断欠勤であることを前提としてなされ、あるいは使用者としての権限を濫用してなされたもので、いずれも違法無効であるから、控訴人は同被控訴人らに対し、」と改める。

8  同七六枚目表七行目「原告ら」の次に「(但し、被控訴人伊藤修を除く。以下同じ。)」を付加する。

9  当審において新たに取調べた証拠中にも右認定判断を左右するに足るものはない。

二被控訴人伊藤修の本訴請求に対する当裁判所の判断は、左記のとおり改めるほかは、原判決理由第一項及び第二項の3に説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決五七枚目表六行目の「同課長は、」から同裏四行目の「考慮しないまま、」までを「同課長は、当日の勤務予定者のうちから既に夜勤勤務者及び宿直勤務者が各一名ずつ休暇を取つているため午後五時から同九時三〇分までの夜間帯の配置人員は三名のみとなつており、当日は繁忙期にあたつていたことからこれ以上の欠員は業務の正常な運営に支障を及ぼすうえ、勤務割を変更して代替勤務者を確保しようにも、当日の日勤帯の勤務者は既に午前八時三〇分から勤務についており、週休者は既に当日の勤務を免除されていて、時間的に代替勤務者を確保することが困難であるし、右のような差し迫つた時期の年休請求であるのに、格別年休を必要とする事由も明らかにされなかつたことから、時季変更権を行使することとし、」と改める。

2  同六〇枚目表一〇行目の「そうすると」から同六二枚目裏八行目末尾までを次のとおり改める。

「そうすると、被控訴人伊藤修がその時季指定どおりに年休を取得したとすると、五月一九日の夜間帯の配置人員は二名のみとなり、業務の正常な処理に必要な要員数を欠く結果になつたものというべきである。

そして、前記のとおり、同被控訴人の年休時季指定は当日午前九時一八分頃なされたものであり、永野課長らにおいて代替勤務者を確保しようにも、労使間の前記協約上当日の勤務割変更には本人の同意が必要であるだけでなく、当日日勤帯の勤務者は既に勤務についており、当日週休にあたる者は既に勤務を免除されていて、代替勤務者を確保することは客観的にみて困難な状況にあつたものであるから、被控訴人伊藤修の年休時季指定は、業務の正常な運営を妨げるものであり、永野課長のした時季変更権の行使は、その要件を満たしているものというべきである(なお、結果的には、被控訴人伊藤修が五月一九日の夜間帯の勤務につかなかつたため、やむなく戸村副課長が同日午後五時から同被控訴人の代務についたことは前記のとおりであるが、その結果同副課長は当日予定されていた局舎警備につくことができなかつただけでなく、同日の日勤から宿直、宿明勤務までの長時間の連続した業務につくことを余儀なくされたものであるから、結果的に同副課長が被控訴人伊藤修の代務についたことをもつて、業務の正常な運営を妨げる場合でなかつたものということはできない。)。

次に被控訴人伊藤修は、右時季変更権の行使が権利の濫用にあたり無効である旨主張するので、この点について判断する。

当初五月一九日午後四時からの宿直、宿明勤務を命ぜられていた萩野春男が特別休暇をとつたのに対応して、戸村副課長が一旦はその代務者として鈴木威志をあてることとし、勤務割の変更もしていたのに、その後、永野課長及び戸村副課長らにおいて右勤務割変更を取消して、同日午後四時からの宿直、宿明勤務のうちの同日午後九時三〇分以降の部分についてのみ戸村副課長に代務させるという措置をとつたこと、永野課長らにおいて右のような措置をとらず、当初していたように鈴木威志を代務者にあてておれば、被控訴人伊藤修が右のような年休時季指定をしても、業務の正常な処理に必要な要員数を欠く結果にならなかつたことは前認定のとおりである。しかし、永野課長らが右のような措置をとつた五月一六日の時点では、被控訴人伊藤修が五月一九日の当日に右のような年休時季指定をなすことは全く予測できず、右五月一六日の時点で、同課長らが、五月一九日の午後五時以降のうち夜勤勤務者が勤務する同九時三〇分までは既に確保されている三名で足り、宿直勤務者が一名となるそれ以降の時間帯についてのみ戸村副課長に宿直勤務者の業務を代行させれば業務に支障を生じることはないものと判断し、またそうすることによつて、鈴木威志に無理をして勤務割の変更を命じて同人が本来勤務割の指定を受けていた五月一九日、二〇日の勤務時間帯の配置人員を減員させずにすむし、戸村副課長に夜半帰宅させる煩をとらせずにすむとの配慮から前記のような措置をとつたことは、それなりの合理性を有するものであり、被控訴人伊藤修主張のごとく、合理的な理由もないまま異常な状態を作り出していたものということはできない。また永野課長らにおいて右のような措置をとつていても、被控訴人伊藤修が適切な時期に年休の時季指定をしたのであれば、右措置を再び変更して代務者を確保することも十分可能であつたのであり、同被控訴人が年休の時季指定をした時点で勤務割を変更して代務者を確保することが客観的に困難であつたのは、同被控訴人の年休時季指定が、就業規則の定めにも反して、当日の差し迫つた時点に至つてからなされたことによるものであることも前認定のとおりであるから、右事実関係のもとで、時季変更権の行使が濫用にあたるものとはとうてい解することができない。

そうすると、控訴人が被控訴人伊藤修に対してした時季変更権の行使は適法有効であり、同被控訴人がした年休の時季指定はその効果を生ぜず、同被控訴人がその時季指定にかかる日に勤務しなかつたことは無断欠勤にあたり、これを理由に控訴人が同被控訴人に対してした本件懲戒処分及び賃金カットはいずれも有効であり、かつ控訴人が同被控訴人に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負う理由はないから、同被控訴人の本訴請求は全て理由がないものというべきである。

三そうすると、原判決中被控訴人高橋信弘、同三浦克則、同伊藤範彦、同渋谷日出夫、同鈴木聰志に関する部分は相当であり、同被控訴人らに対する控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、原判決中被控訴人伊藤修の本訴請求を認容した部分は相当でないからこれを取消し、同被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官伊藤和男 裁判官岩井康倶 裁判官西村則夫)

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